『キーパー ある兵士の奇跡』
ここまで空前の『鬼滅』フィーバーになると他の作品が埋もれてしまいがちですが、そんな中で見逃してほしくない良作も上映中です。今回ご紹介する作品は10/23(金)公開『キーパー ある兵士の奇跡』です。
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舞台は1945年。連合国軍の捕虜となりイギリスの収容所に送り込まれたナチス兵士バート・トラウトマン(デヴィッド・クロス)。キーパーをしている姿を地元のサッカーチームの監督ジャックに見出され、彼の家に住みこみで働き、連敗続きのチームに参加することに・・・。最初は敵対視していたジャックの家族と選手たちもバートの選手としての活躍と人柄を知るにつれ次第と彼を受け入れていきます。やがて彼は名門サッカークラブに入団することになります。
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本作は実話を元にした映画ですが、主人公のバートは知る人ぞ知るという選手でどちらかと言えばサッカー通の中でも「なぜ彼の物語を?」となるようです。タイトルにも“キーパー”と付いているのでサッカー映画に思われるでしょうが、ナチス兵だった青年が敵国イギリスの名門チームで活躍し、伝説のGKとして国民的ヒーローとして愛される存在となった、という点では確かにそうなのですが、本作ではそれ以上に和解と愛情がテーマに描かれていることに今、映画化された意味も強くあると思います。
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バートに選手としての才能があったとしても彼がイギリスで簡単に受け入れてもらえるような時代でもありません。まだ戦争の記憶も色濃くある時代、戦争のために愛する人を亡くし、あったかもしれない日常を奪われた人々の心の痛みや憎しみは近くにいるバートに向けられます。でもバートもこう訴えるのです、「自分には選択肢がなかった。戦うことしか選べなかった・・・」と。
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時代の波の中で戦地に駆り出されるしかなく、捕虜となり異国の地に流れ着いた彼の数奇な運命の前に、バートという個人と触れあっていくことでジャックの家族もチームメイトたちも憎むのは戦争そのものであって彼ではない、という事に気付いていくのです。そう、彼も被害者なのだ、と・・・。
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そんな中で監督の娘マーガレット(フレイア・メーバー)と心を通わしていったバートは彼女と結ばれ、マンチェスターの名門クラブにも入団することにもなります。が、そこでまた彼は偏見の目にさらされることとなります。マンチェスターはユダヤ人の大きなコミュニティが存在していたから。彼がフィールドに立つと湧き上がるのは歓声ではなく、ブーイングだったのです。
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でも彼を支えたのは妻となったマーガレットでした。時に自分まで屈辱的な罵声を浴びることがあっても彼女は彼に寄り添い続けます。出会った頃はバートに対して拒否反応を示した彼女もバートという一人の人間と向き合うことで彼を許し、愛するまでになった、それはきっと他の人にも伝わると信じていたのだとも思います。
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映画の中ではあるトラウマと悲劇的な事件がバートをさらに苦しめていくことも描かれますが、そこから立ち直るきっかけを与えるマーガレットのバートへの向き合い方も、そこに愛があるからこそと胸打たれるのでした。
本作は国や民族性を越えて人々を一つにするスポーツのパワーを描きつつ、人を憎むのではなく許すことで前に進もうとする人々の姿を描いたからこそ今、とても必要な映画なんじゃないかな、と思うのです。
By.M
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