『不都合な理想の夫婦』
シネマイクスピアリでは<キネマイクスピアリ>と名付け近年話題になった作品から、クラシックの名作まで毎月一作品ずつ特別料金でお届けする上映を実施しています。今回は11/4(金)~11/10(木)で上映する<キネマイクスピアリ>11月の作品『不都合な理想の夫婦』をご紹介します。
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ニューヨークに住むローリー(ジュード・ロウ)とアリソン(キャリー・クーン)は娘と息子の4人で人も羨むような幸せな生活をしていた。しかしローリーはさらなる野心を胸に好景気に沸く故郷ロンドンへの移住を決める。最初は新天地に不安を募らせていたアリソンと子供たちだったが、立派な豪邸での暮らしに胸を弾ませる。が、ある日アリソンは自分たち家族が置かれている立場がとんでもない状況であることに気付いてしまう・・・。
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映画の冒頭ではこの二人、どこから見ても“理想の夫婦”なんです。ジュード・ロウ演じるローリーは妻のアリソンより早く起きるわ、コーヒーをベッドまで運んでくれるわ、子煩悩だわで「もうジュードったら~♡」と思考回路も混線、“幸せを絵に描いたような~”という表現はまさにこんな光景だな、と思わせられるシーンから始まります。
でも同時にふとした瞬間にあれ?と思わせられるほころびや匂わせも描かれるのでどこか心がざわつくんです。それはロンドンに引っ越してすぐ、家の前で家族写真を撮る時のなんてことないシーンから始まっています。
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故郷でも一旗上げるぜ!なローリーは自信に満ちて輝いているのですが、自分の立場や財力をひけらかすような言動がちょいちょい鼻につくようになります。妻アリソンも何不自由ない環境を与えられているけれど、仕事で忙しくするローリーとのすれ違いが増えてくるし、彼のあまりの浪費っぷりに不安が募っていく。そんな時に知ってしまうのです、彼の本当の実態を・・・
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それは自分の夫は人一倍向上心が強く野心家なんだと思っていたのがその実、虚栄心にとり憑かれ、マウントを取ることで人より優位な立場に立とうとし、そんな中で作り上げた優越感の中でしか生きられない男だったことを。物語が進むにつれローリーの言動に観客もどこか引っかかるようになるのですが、そんな胸のざわめきが1つ、また1つ増えていく感覚と理想の夫婦と思っていた二人に歪みが生じていく様が呼応していくようになります。
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夫の本当の姿を知ったアリソンもなんとかローリーに現実をわかってもらおうとするのですが、さらに夢を語り「愛する家族のために自分は外で頑張っているんだ」なんて言われても結局は自分がどう見られるかだけしか考えていないうすっぺらな男の言い訳です。自分を大きく見せようと小さな嘘を隠すために嘘を上塗りし肥大化し収集がつかなくなる、これぞ嘘つきの典型行動です。その後も現実からは目を背き、夢と虚言を吐きまくる、そんなローリーが家庭や社会でどんな状況に置かれるかは押して知るべしです。
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自滅していくローリーが実家の母の元を久しぶりに訪ねてもなお虚勢をはりまくり、小さな嘘をつく(というかある真実を隠す)その姿やその後、家に帰るために乗ったタクシー内でのやり取りは呆れるを通り越して哀れみすら覚える決定打。からのエンディングの描き方は本当に秀逸です。まるで舞台劇を観ているかのような感覚にも襲われ、何とも言えない余韻に包まれることでしょう。
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素敵な旦那さんと思っていたローリーは空っぽ、見栄っ張り、マウント取りまくりマンと三拍子揃ったダメ男だった訳ですが、いい男過ぎる宿命と申しましょうか、スノッブでいけすかない男にも見えてしまうジュード・ロウが演じたからこそ、その最低っぷりはより引き立ち、でもその中に人間の愚かな業を肯定せざるを得ない悲哀みたいなものも感じさせてしまう所に彼の役者としての魅力も垣間見た気がします。
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そう『ファンタビ』のダンブルドア先生みたいなイケオジ路線のジュードも良いのですが、個人的には嫌なヤツを演じた時こそ彼の本領発揮だと思っているので私はこの映画で“観たかったジュード・ロウ”に出会えたことにも大大大満足です。
By.M
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