『君の名前で僕を呼んで』
皆さんこんにちは。GWに間もなく突入、大作も続々公開されますが、今週はインデペンデント映画から本年度のアカデミー賞主要4部門(作品賞・主演男優賞・脚色賞・歌曲賞)にノミネート、うち脚色賞を受賞、私の中では文句なし主演男優賞も獲得した!?4/27公開『君の名前で僕を呼んで』をご紹介いたします。
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1983年夏。17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)は夏になると家族と共に北イタリアの避暑地で過ごしています。大学教授の父の元には毎年インターンの学生がやってきて父の研究を手伝いながら彼らとひと夏を共にする。今年やってきたのは24歳の大学院生、オリヴァー(アーミー・ハマー)。夏の日差しの元、彼と一緒に時間を過ごしていくうちにエリオは彼への好奇心が特別な感情であることに気付いていきます
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ひと夏の出来事が生涯忘れられない記憶を残す・・・このテーマで描かれた映画はこれまでも数々ありましたが、本作は2000年代の決定版と私は言いたい。人を好きになった時、それも初めて誰かを特別と感じた時に知る様々な感情が日常に降り注ぐ太陽の元でキラキラと眩しく描かれる・・・もうクラクラです。
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とにかくこの映画、全てが美しい・・・。舞台は北イタリアの田舎の避暑地。その町並み、エリオの滞在するヴィラはもちろん、降り注ぐ初夏の日差し、それが輝く川やプールの水面、目を閉じれば風の音さえ聴こえてきそう。そんな中で何をするでもなく本を読んだり、ピアノを弾いたり、たわいもない会話をしたり、食事をしたり・・湿気と酷暑に悩まされ、長期休暇も取れない我らにとってひと夏の“ヴァカンス”を眺めるだけでうっとりです。しかもそこに登場するのはエリオとオリヴァーという魅力的な二人なんですもの。
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特にこの映画の最大の魅力とも言えるのが、主人公のエリオを演じる新星ティモシー・シャラメくん。彼自身、育ちがよく、劇中でもフランス語もイタリア語も話し、ピアノも弾けちゃう。17歳という微妙な時期の少年がこんなにもチャーミングなのも彼が演じたからこそ。おどけたり、はしゃいだり、すねたり、何をやってもシャラメくんがやると愛おしい・・・勿論、チャームさだけでなく彼に備わる確かな演技力に心を惹きつけられ、きっと誰もが打ちのめされるはず。彼がキャスティングされたことで既に映画の神様がこの映画に微笑んでいたようにも思えます。
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そしてエリオが心奪われるオリヴァーは全てを持っている男アミハマさんことアーミー・ハマー。ローマ時代の彫像のような端正な風貌で自信家なオリヴァーに第一印象はそうでもなかったけれど、エリオが彼に特別な気持ちを抱くのにそう時間はかかりません。
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知らぬうちに目で追っていたり、彼の発言に反抗してみたり、ちょっと触れられただけで過剰に反応してみたり。自分の心がどんどんオリヴァーに動いていることに気付き、でも本能のままにその戸惑いすら受け入れていく。恋の初動の描かれ方もなんと美しいことか・・・。気持ちが伝わり、受け入れられ、幸せで満ち溢れる奇跡的な瞬間の描かれ方もまばゆいばかりです。でもオリヴァーのこの地での滞在は6週間、別れの日も近付いていたのです・・・。
この映画を観ていると様々な美しさの中に映画そのものがエリオに寄り添う優しさに満ちていることにも気付きます。その最たる存在がエリオの両親です。彼らはエリオの心の変化を感じ取っても問い詰めることはおろか否定することもありません。いつも彼を尊重し、距離を保ちながら見守り、でも必要な時にはそっと寄り添います。
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映画の終盤、父(マイケル・スタールバーグ)が傷ついたエリオにかける言葉はこの映画を観た全ての人の心を動かすことでしょう。その言葉はこれから新しい恋に出会う人、今までにたった一度の経験をしたことがある人、全ての人を優しく包み込む、忘れられない言葉になると思います。私はエリオパパからのこの言葉が聞きたくて、これからも何度となくこの映画を観続けるような気がしています。この映画で描かれる美しく儚い輝き、私の胸の中の一番奥に永遠に保管したい・・・
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エリオがかけがえのない出会いをしたように、この映画との出会いがみなさんにとってもかけがえのないものになりますように・・・そう願わずにはいられない、心からのオススメな1本です!!!
By.M
(C)Frenesy, La Cinefacture