『男はつらいよ お帰り 寅さん』
昭和の年末はこの映画の公開が季節の風物詩的存在でした。今回ご紹介するのは12/27(金)公開『男はつらいよ お帰り 寅さん』です。
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テキ屋稼業を営み日本中を旅する主人公・車寅次郎(渥美清)、通称寅さん。旅先から故郷の葛飾柴又に戻ってきては、家族や恋したマドンナを巻き込み騒動を起こす、というシリーズもので、寅さんは昭和の国民的スターでした。渥美さんの死去に伴い、1997年に公開された49作目が最後となりましたが、1作目公開から50周年となる今年、50作目となる新作が公開されることになりました。
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物語は寅さんの甥っ子・満男(吉岡秀隆)が主役。小説家になったもの妻を亡くし、迷走中の満男は中学三年生のユリ(桜田ひより)と二人暮らし。もやもやした日常を送っていたところ、初恋の人・イズミ(後藤久美子)と再会します。
本作は新撮された登場人物たちの“今”とデジタル修復で蘇る過去作の映像が見事にリンクし、物語が紡がれていきます。
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と書き出してみたもの「寅さんか~、ちゃんと観たことないなぁ・・」的な若い方もいると思います。そんな私もTV放映されているのをチラ見した程度で“男はつらいよ”の世界に触れたことはほとんどありませんでした。でもひょんな事から昨年『男はつらいよ 知床慕情』を名画座で観て“男はつらいよ”の世界にズブズブっと足を踏み入れた、という新参者です。でもその時に思ったのです、「今だからこそ寅さんのような存在が必要なんじゃないか」と。
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“フーテン”の寅さんと言う枕ことばが付くように、寅さんはかなりの自由人。コンプライアンスが叫ばれる昨今、ガサツで奔放過ぎる寅さんが今いたら生きづらかったかもしれません。でも、寅さんは他者を思いやる真心の持ち主で広~い心で「万事OK!」とマルっと全てを包み込むような存在です。他者との繋がりが希薄になった今だからこそ、寅さんの言動は昔以上に温かく感じられると思うんです。
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本作で次のステップが踏めずに一人悶々とする満男はついつい寅さんの在りし日の姿を回想します。それが今回デジタルで修復された過去作の映像なのですが、大人になった現在の満男の背中をポ~ンと押すのはあの時同様に当時の寅さんの言葉。でもそれによって寅さんの不在が過剰にセンチメンタルに描かれるのではなく、今もなお寅さんイズムが日常にじんわりと沁みていることが感じられると申しましょうか、かつて寅さんが投げかけた言葉は今もなお現代人の心にもとても響いてくるんです。
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なくしてはいけないのに見失いがちな感情を呼び戻してくれる、寅さんの言葉や存在はタイムレスなんだな~と思わさる。寅さんは決して一昔前のアイコンではないのだな、と。
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本作の主軸は満男の今とこれからなので、これまで寅さんに慣れ親しんでいた人はもちろん、ニューカマー寅さんな方が観ても笑って、時にじんわりと、でも最後には朗らかで爽やかな気持ちにさえせてもらえる、まさに年末年始にピッタリな1本になっています。中学生以下の方はなんと映画料金100円!と寅さんからのプレゼント付きですので家族総出でお楽しみあれ~
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