『82年生まれ、キム・ジヨン』
「世界男女平等ランキング2020」でG7の中でも圧倒的最下位121位の日本。何とも厳しい数字を前にこの映画はどう皆さんに受け止められるのでしょう。今回ご紹介する作品は10/9(金)『82年生まれ、キム・ジヨン』です。
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結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に忙殺されているジヨン(チョン・ユミ)。疲労感漂う彼女を夫デヒョン(コン・ユ)は心配しつつも日々を過ごしています。そんなある日、ジヨンは精神のバランスを崩し、まるで他人がのりうつったような会話をするようになり・・・
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本作はいわゆる、女性が社会の中で感じる生きづらさを描いた作品。日本でも某大学で女性受験者を一律減点した問題が明るみになったり、国会でも企業でも女性トップの登用はごくわずかなどとジェンダーギャップが縮まる様子はなく、むしろ世界の中では置いてきぼりをくらっているのも事実。そんな社会に生きる女性陣にとってこの映画はもう共感でしかないでしょう。「あるある!」なエピソードに溢れ、ジヨンやその他の女性たちに(男女問わず)発せられるセリフに「はい、ダメー」と何度もダメ出しして観てしまうことでしょう。
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夜道を歩いていた学生時代、危険な目に遭うのは本人の不注意のせいと父親から怒られ(えっ?私は被害者なんだけど)、社会人になって受けたセクハラ講習会で「窮屈な世の中になったな」と上司は笑い、(えっ?こっちは我慢してるんだけど?)、結婚すれば軽々しく子供を早く作りなさい、作ろうと言われる。加えて育児は女性がするもの前提で全てが運ぶ・・・何でこんな地獄絵図ばかりの逸話だらけなのか。
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はたから見れば結婚をし、子供を産んで、優しい旦那さんがいて(しかも演じるのが優しさ溢れる男性というパブリックイメージを持つコン・ユ!)不自由のない生活を送っていると思われるかもしれませんが、彼女は生まれてからずっと女性であったことで受けてきた心の歪みが積み重なっています。キム・ジヨンという個として生きる前に女性であることを突きつけられる。そしてそれは結婚という幸せを得てしてもなお続き、妻となり母親になったことでさらに加速していくのです。
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原作では心を病んだジヨンが精神科医にかかり診断を受けるという流れで彼女の人生が少女時代から語られ、ラストは「地獄、マジこの世、地獄!」と叫びたくなるシニカルエンディングを迎えます。でも原作が2016年に刊行されていたこともあってか映画版はもう少し現代風にアレンジされていたり、小説では妻の苦労も他人事設定の旦那さんも映画では妻を心配し、自分が育休を取ることを提案し、病院に診てもらうことも積極的に勧めるという改定やそもそものエンディングにおいても希望を感じられるようにはなっています。
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でもそれは妻を思っているデヒョンでさえ無自覚に彼女を追い詰めてしまっているという事にも繋がります。劇中の様々な発言の多くが無自覚で投げかけられるものが多く、それ故にその言葉を受けた人は深い傷を追い、無自覚ゆえに性質が悪い。しかもその発言は同性から受けるものも多いのです。
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原作以上にフォーカスされるジヨンの母、彼女の慟哭シーンはあの世代だからこそ今以上に耐えてきたことが浮き彫りにも・・・。我慢することを強いられていた負の連鎖を娘の世代には引き継ぐまいとしながらも、それでも強いてしまう局面もありとても胸が締め付けられるのでした。
テーマがフェミニズムに関連すると女性の権利ばかりに目がいきがちですが、男性の生き辛さとも表裏一体だと私はいつも感じます。育休を取ろうとしたデヒョン、それを義母にジヨンが責められるシーンなどまさにそれ。女性らしくあれという強要は男性らしくというそれと同じだし、この映画で描かれることは個人の頑張りだけでは限界で社会の構造が変わらないと、という問題にも溢れています。自助だけではどうにもならないし、社会全体で変わっていかないと殺伐とするだけだと思うんです。
By.M
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