『最後の決闘裁判』
世界的なパンデミックの影響でいつもより洋画作品の公開本数は少ないのですが、そんな中でも今年最も輝いている新星スターと言えば『フリーガイ』でも注目を浴びたジョディ・カマーだと太鼓判を押しちゃいます。今回はそのジョディ・カマーの存在感が鮮烈な10/15(金)公開『最後の決闘裁判』をご紹介いたします。
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舞台は14世紀フランス。騎士ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)の美しい妻マルグリット(ジョディ・カマー)が夫の旧友ジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)に乱暴をされたと訴える。だが、ル・グリは無実を主張。真実の行方は、夫と被告による生死を賭けた“決闘裁判”に委ねられる。それは“勝者は神が導く”と言う考えの元、敗者は罪人として死罪になる絶対的な裁きだった。
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監督は『エイリアン』『ブレードランナー』『テルマ&ルイーズ』『オデッセイ』と幅広いジャンルの映画を作り続ける、83歳の巨匠リドリー・スコット。デビュー作が『デュエリスト/決闘者』だったので最後も決闘もので引退覚悟なのか?と思いきや、今後も噂を含め11もの企画が進んでいるという、現在進行形で最前線を駆け抜けるのがリドリー・スコット監督です。
本作を語る上で注目すべき点は一章が被害者の夫カルージュ、二章が加害者ル・グリ、そして三章が被害者マルグリットの視点という三部構成で描かれること。マルグリットに対するル・グリの行動はどういう背景で行われたのか?という映画『羅生門』スタイルが取られています。
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でも3人の視点で繰り返しエピソードが語られる内にそれぞれ異なる事実が少しずつ明らかになった時に誰の証言が真実なのか?という点に帰結していくのではなく、“人が如何に自分の都合のいいように物事を解釈してしまうのか”という点がフォーカスされます。三章が始まる際にマルグリットの証言~“The Truth(真実)”~の文字が浮かび上がるので、三章こそが本作で描きたかったことだという提示と取れます。
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3つの視点が語られる中で各々の記憶が差し替えられていたり、勝手に勘違いしたりと感情の危うさが浮き彫りになり、人間はかくも滑稽で愚かな生き者であることがまざまざと描かれます。
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そしてこの争いで守られるべきはマルグリットの尊厳なのに、二人の男性の体裁、プライドが優先され、彼女の訴えは結局、男たちの決闘におけるただの引き金として利用されていきます。その時代の“決闘裁判”において夫カルージュが負ければマルグリットまでも生きながら火あぶりの刑に処せられるのに・・・その事実は直前まで彼女に知らされることなく、物事は進んでいきます。
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一方で、周囲の人々がマルグリットにも否があった的な証言をするくだりも描かれ、被害者が往々にしてセカンドレイプの被害にも遭ってしまう悲劇も描かれます。彼女の告発は決闘裁判によって聴衆の面前にさらされることにもなり、大衆の娯楽の1つに消費されていく下りも人間のさもしい感情を露呈させていきます。
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というように本作の舞台は中世ですが、現代にも通じる、いやまさに“今”を語った映画になっています。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』以来、マット・デイモンとベン・アフレックが共演、脚本というところに焦点が当たっていますが3つのパートの脚本を分業制にし、マルグリット目線の三章目を一任されたニコール・ホロフセナーの手腕が光ります。
そして何より冒頭でも触れた通り、視点によって異なる微妙なニュアンスも演じきったジョディ・カマーはこの演技でまた多くの監督、プロデューサー陣の目に止まり、さらに飛躍していくことも間違いありません。まさにライジング・スター、今後も要注目です。
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