『秘密の森の、その向こう』
この映画に合わせて季節も移ろい始めた気がします。今回ご紹介する作品は9/23(金・祝)公開『秘密の森の、その向こう』です。
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先ず始めにこの映画は72分というとてもミニマムなフランス映画ということ。1人の女の子がケアホームにいる老人に「さようなら」とお別れの挨拶をしているシーンから始まります。彼女の名前はネリー(ジョセフィーヌ・サンス)。でも最後に向った部屋には老人はおらず、ネリーのママらしき女性(ニナ・ミュリス)が力なく佇んでいる・・・というのが説明台詞を一切用いることなく描かれていきます。それでもこの少女がどんな状況に置かれているのかは想像出来る。映画は最後までこのように観客のイマジネーションを刺激しながら柔らかな流れのまま進んでいきます。なので、どんな物語かを知らずに観る方が素敵かもしれませんが・・
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さらに内容に踏みこむならこの後、亡くなったおばあちゃんのおうちの片付けをしに出かけたネリーはかつてママが幼い頃に遊んでいた森で同い年の女の子と出会います。彼女はママと同じ名前を持つマリオン(ガブリエル・サンス)。その子に誘われ辿りついた場所は“おばあちゃんのおうち”、そう彼女は“8歳のママ”だったのです。この映画は大好きだったおばあちゃんを亡くした女の子ネリーの物語であり、母親を亡くしたネリーのママ・マリオンの物語。ファンタジーな世界観の中でそれぞれが抱える喪失感を描いていきます。
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時空を超え、母と娘が森で出会う・・・という物語的トリックがあるけれどとてもシームレスに描かれていて、ただ森に出かけるだけ、テーブルで食事を取っているだけでネリーやマリオンは自然にそれぞれの世界を行き来します。ネリーはおばあちゃんの突然の死に心を痛めるばかりかママが急にいなくなったことでさらに悲しみを抱えています。ママはおうちの片付けをし始めてすぐ、どこかに行ってしまったのです。その事実を騒ぎたてることなく、彼女にとって必要なこととして家に残るパパ(ステファン・ヴァルペンヌ)と一緒に片付けを続けたネリーは森で8歳の時のママ・マリオンに出会うことになります。
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マリオンはママの足が悪いこと、マリオンも幼いうちに手術をしておかないと同様の病気になってしまうことから3日後に手術をするためとてもナーバスになっています。不安定な感情を抱えた者同士の二人はそれぞれの悲しみに寄り添うようにして仲良くなっていきます。
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森で枝を集めておうちを作ったり、ゲームをしたり、二人が遊ぶ姿は本当に愛らしく、その光景一つ一つが絵本から抜け出たような可愛らしさ。かと思うと大人が主人公の劇を二人で演じてみたりする姿は子供って実は大人をよーく見ているよね、なシーンでドキっとする。こんな風に子供だからと思っていても、子供だから余計に大人が心に秘めていることも察知してしまうことってがあって、私はこの映画を観ながら近しい感覚を遠い記憶からたぐり寄せていました。
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余白が多い映画なので観る人にとってたくさんの感じ方があると思いますが、私にとってはこの映画は“さようなら”をするまでの物語でした。大切な誰かの死を経験することは年齢を重ねると増えてくるけれど、ネリーのように実際に「さようなら」を伝えることすらままならないもの。
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またネリーのママのように覚悟していても受け入れることとは別のこと。それでも残された人はこれからも生きることでしか前には進めない。だからどんな形であれ「さようなら」をする行為は死を受け止めると同時に生きることへの一歩なんだと思うのです。
By.M
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