『バーナデット ママは行方不明』
常に第一線を歩き続けるケイト様ことケイト・ブランシェット。彼女がどんな役を演じるのか毎回楽しみです。今回はケイト様がエキセントリックな専業主婦を演じる9/22(金)公開『バーナデット ママは行方不明』をご紹介いたします。
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シアトルに住む専業主婦のバーナデット(ケイト・ブランシェット)は、一流IT企業に勤める夫エルジー(ビリー・クラダップ)と親友のように仲良しの娘ビー(エマ・ネルソン)と幸せに暮らしている。が、彼女は極度の人嫌いで隣人やママ友との付き合いが苦手。外出も極力したくないから日常的な手配を全てメールで依頼出来るバーチャル秘書に丸投げしていたほど。そんなバーナデットには天才的な才能を持つ建築家だったキャリアがあり、それを諦めていた過去があった。そしてある出来事をきっかけに限界に達した彼女は忽然と姿を消してしまう。
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ケイト・ブランシェットと言えばベルリンフィル初の女性マエストロを演じた『TAR/ター』での演技も記憶に新しいところ。これにアカデミー賞主演女優賞受賞作の『ブルー・ジャスミン』を入れて、ケイト様が演じた3大ぶっ飛びキャラの1人としてエントリー出来るぐらいの奇抜キャラがバーナデットです。でもたとえ難ありな人物でもケイト様が演じると魅力的なキャラになっていく訳ですが、本作でもそのケイト様マジックが光ります。
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元々難し目なバーナデットでしたが、娘のビーが中学校卒業のお祝いに家族で南極旅行に行きたい!とおねだりしたことを機に彼女の中の面倒臭さに拍車がかかってきます。理解ある夫、最愛のわが子ビーとの日々があれば他は何もいらない、というような生活を送ってきたバーナデットにとって、まもなく寄宿学校生活を始めるため自分の手から、いや自分の世界からビーがいなくなることが痛手・・・
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追い打ちをかけるようにご近所トラブルも悪化し、さすがに今回ばかりは夫のエルジーも他人を頼らざるを得ず、いつもは全面的に自分を理解してくれる夫まで彼女に精神科の医師の助言を聞くように、なんて言う始末だからバーナデットの内なる世界が崩壊し限界値はMAXに。そこで彼女は一人、逃亡してしまうのです。ビーが行きたいと提案していた南極へ。
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あらすじを追うと突拍子のなさを感じるでしょうし、バーナデットは一見かなり恵まれている部類の女性に見えるので「持っている人の悩みは庶民からすると羨ましいんだけど・・・」と思わなくもない。でもその一方でキワキワな加減もコメディタッチな展開や何よりケイト様の演技力でもって、こちら側が引き寄せられてしまう。
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大切な人のために自分の大切なものを諦めざるを得なくなること、生きるよすがとなっていたものが無くなってしまうことで自らのバランスまでも崩してしまうことって誰でも経験し得ることだから。それに人が抱える悩みの重さはその人のものだから、一面だけでその人全部を判断するなんてナンセンスですしね。
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そしてバーナデットを見ているとやっぱり人はただ逃げるだけじゃドン詰まる一方で、逃げるにしてもそれと対峙してからでないと、次には進めないんだな、ということも感じちゃう。自分とちゃんと向き合わないと最終的に他人のせいにするだけだったり、後悔の沼にはまり続け自分を押し殺して生きるだけだもの。
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リミッターをかけていたバーナデットがその足かせをほどいていき、ついにはマグマを爆発させるかのごとく自身を解き放つ姿はとても清々しく、またバーナデットからかけられる愛情を素直に受け取り、それを真っすぐ母親に返す娘ビーの存在がなんと爽やかなことよ。大人になっても我らはいくつになってもひな鳥だから、自分を縛らずに生きる術を見つけるのって大事だわ~♪
By.M
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