ウラシネマイクスピアリブログ

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『マリウポリの20日間』

 2022年2月、ロシアがウクライナ東部マリウポリへ侵攻開始。その惨状をAP通信取材班が命がけで撮影を敢行し、決死の脱出劇の末、世界へと発信された奇跡の記録映像。それを元に制作された映画は本年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しました。今回ご紹介する作品は5/3(金)公開『マリウポリの20日間』です。

 映画の冒頭、ロシアの侵攻が始まり泣き叫ぶ女性をなだめようと記者はこう言います。「ロシア軍は民間人を襲わないから」と。しかしその後ロシア軍は罪なき市民への容赦ない攻撃を始めます。

戦争を始めた人は安全な場所から指示を出すだけですが、その被害に遭うのはいつだって戦争なんてこれっぽっちも望んでいない市民たち。公園でサッカーをしていただけの少年や1歳にも満たない子供が両親に抱きかかえられ病院に次々運び込まれます。

海外のジャーナリストが国外退去する中、AP通信のウクライナ人記者ミスティスラフ・チェルノフは僅かな取材班と共に滅びゆくマリウポリと戦争の惨状を世界に伝えるために取材を続けます。

 AIで意図的な映像も作れてしまう昨今、命がけで取材した記録ですらロシアサイドはフェイクだと言って、自分たちの非人道的行動を認めません。マリウポリはライフラインも通信手段も断たれ孤立し、ウクライナも自国だけで戦うことの限界はとうに越えています。そんな中で国連や各国に救いを求めるためにカメラを回し続けるジャーナリストの姿に彼らがなぜここまでするのか、その存在意義だけでなく、ジャーナリズムの真意をも映し出していきます。

 ここで起きてることは我々にとって遠い国の無縁の出来事では決してありません。戦争はなんてことない日常の延長戦上に突如姿を現すものだと、この映画は改めて提示します。

アカデミー賞授賞式の壇上で本作の監督でもあるミスティスラフ・チェルノフは「この映画が作られなければ良かった・・・」と語ります。本作を観た観客の心にはこの言葉が強く心に突き刺さることになります。

 未だ世界中のいろんな所で紛争が続いている中で切り取られた情報しか知る手立てがない我々はその後ろにある市民生活、戦争がどういう姿形をしているのか、この映画で知る必要があると思うのです。

By.M