ウラシネマイクスピアリブログ

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『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

 「最近、よかった映画何?」と聞かれるとまっさきにこの作品を挙げています。ささくれた私の心に柔らかい明かりを灯してくれた1本・・・今回は6/21(金)公開『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』をご紹介いたします。

 舞台は1970年代のボストン郊外にある全寮制のバートン校。多くの生徒や教師たちがクリスマス休暇を家族と過ごすために学校を後にする中、家に帰れない生徒の子守役を任されたのは古代史の教師ハナム(ポール・ジアマッティ)。勉強は出来るが反抗的な生徒アンガス(ドミニク・セッサ)とベトナム戦争で息子を亡くしたばかりの料理長メアリー(本作でアカデミ―賞助演女優賞を受賞したダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)という居残り者たち(“ホールドオーバーズ”な)3人が2週間という冬休み期間、寄宿舎で共に過ごし年を越すことになります。

 この映画の監督が『サイドウェイ』や『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』などのアレクサンダー・ペインで、主演がポール・ジアマッティと聞けばそれだけで「面白そう!」となる映画好きな方も多いかもですが、そうでない方にこそオススメしたい!

 年齢も立場も違うけどそれぞれに孤独を抱えている3人。生真面目で融通が利かないハナム先生に「やんや、やんや」と言われて突っかかるアンガス青年という二人は何かにつけて衝突するばかり。なかなか心を開かないけど端的なアドバイスをし、二人の橋渡し的存在となるメアリー、そんな3人がコミュニケーションを続けているうちに関係性が変化していく・・・。それがじんわりと沁みてくるんです。

 ハナム先生とアンガスの二人はお世辞にもいいやつ!というキャラじゃないところもいい。二人ともシニカルでそれでいて寂しがり屋な一面もあって、だから虚勢を張ってしまうところもあって、いわゆる面倒なヤツな部類です。でもそんな彼らが無意識に、はたまた意図的に無神経な言動を発していたことを顧みて、偏屈者、不器用者なりに人生のシフトチェンジを試みようとする様がグっときちゃう。

 ちょっと変わり者な彼らだけどユーモアがあるし、強情が度を越してムキになった時の人間の可笑し味が物語のエッセンスにもなっていて、あんなに笑いながら映画を観たのも久しぶりだなぁ~、という軽やかさもこの映画は備えています。

 本作の良さを表現するピッタリの気の利いた言葉が浮かばなくて歯痒いですが、人生のほろ苦さ、ままならなさをそっと優しさで包み込み差し出されたらこれだった・・・と申しましょうか。

人生はビター&スィート、大団円と手離しでは言えないかもだけど、それでも3人がそれぞれに一歩前へ進む姿には明るい兆しを感じちゃう。いいニュースがめっきり少ない昨今、だからこそこういう映画に出会えるとほんと嬉しくなります♪

By.M