『シンシン/SING SING』
桜が咲き、春が訪れた・・・と思ったらあっという間に猛暑日の到来ですね。新生活を始めた方もいらっしゃるかもしれませんが、こんな気まぐれな気候だと気持ちも追いつきませんね。今回ご紹介するのはそんな気持ちを和らいでくれる、ハートウォーミングかつ感動に溢れる映画、本年度アカデミー賞主演男優・脚色・歌曲賞3部門ノミネート、4/11(金)公開『シンシン/SING SING』です。

物語の舞台はニューヨークのシンシン刑務所。無実の罪で収監されたディヴァインG(コールマン・ドミンゴ)は刑務所内の更生プログラムの1つ“舞台演劇”に参加することで生きる希望を見い出そうとしていた。そんな中、刑務所内で最も恐れられている囚人クラレンス・マクリン(本人役)こと通称ディヴァイン・アイがこの演劇グループに参加することに・・・。

様々な問題を抱え、重い罪を背負い収監されている囚人たち。社会復帰するまでのハードルはその罪に比例して困難なものだと言えるでしょう。収監者を処罰することから更生への道を促す制度に時代は変わっている昨今、シンシン刑務所で行われているような演劇を通じた更生プログラムは実際に驚異的な成果を出しているそうです。本作はそのプログラムを元に刑務所で出会った男たちの友情と再生を描いていきます。

人生において取り返しのつかない失敗や過ちを犯しても、そこからもう一度立ち直る機会は誰にでも与えられる権利です。でもそれが容易ではないことも事実。そんな中で更生の道を歩む方法がこういった形で指し示されることは本当素晴らしいと心から思える1本です。ただの“いい話”映画で終わらないのは、主演のディヴァインGを演じたコールマン・ドミンゴ以外の多くのキャストが実際この更生プログラムを経験した元囚人たちであること。エンドクレジットのHimself(本人)の文字の多さがこの映画をより説得力があるものに押し上げています。
(主要キャストの85%以上が実際にシンシン刑務所の元収監者で、演劇プログラムの卒業生及び関係者たちで構成されているそうです)

このプログラムが“演劇”であることも物語の感動をさらに引き立てます。演劇を通じ、誰かになるプロセスは誰にでもなれるというメッセージとイコールです。収監者が再び社会に身を置くことがとても困難な中、誰かを演じることでまた新しい自分になれるという糸口を見つける様も描かれこちらまで救われるような気持ちになります。「自分は何かになっていいんだ」といったポジティブな感情を自らで得ることって大切だと思うんです。

刑務所の中という社会からは隔離され限定された、何処にも行けない空間だからこそ、演じることで何処にも行ける、どの時代にも、誰にでもなれる、どんな可能性だってあることを身をもって知ることは彼らにとってどれだけの希望になるか。
芸術を通して人生をやり直し、豊かな感情も育んでいく、演劇の、芸術の懐の深さ、その素晴らしさも再発見できます。

諦めた時が終る時、こうやって人は何度だってやり直せる。実際にこの映画で自分自身を演じた彼らの物語だからこそ、感動もひとしお。同じ環境下で共に笑い、苦しみ、ゴールに向かうことで芽生えた彼らの友情にも胸熱です。
By.M
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