『ムーンライト』

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 皆さんこんにちは、女住人Mです。今回ご紹介する映画は本年度のアカデミー賞作品賞・脚色賞・助演男優賞受賞作、3/31公開『ムーンライト』です。そんな冠がありながらも本作をまだご覧になっていない方もいらっしゃると思います。私の周りでも「重たい内容っぽいな~」「社会派っぽいやつでしょう?」と言った印象で敬遠している声を聞きます。でも私がこの映画を観終わって最初に口に出た感想は「いや~ん、ロマンチックや~ん。(うっとり)」でした。
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 マイアミの危険なエリアに生まれたシャロンが物語の主人公。彼の少年時代(アレックス・ヒバート)、思春期(アシュトン・サンダース)、成人(トレヴァンテ・ローズ)になるまでを3部構成で描き、3人の役者がそれぞれのシャロンを演じます。

リトルとあだ名をつけられた少年時代のシャロンはその名の通り、ちびっこ、内気な性格で学校でもいじめにあっています。家に帰っても麻薬に溺れている母親(ナオミ・ハリス)が知らない男の人を家にあげていて、どこにも居場所がありません。そんな彼がある時、ドラッグの売人ファン(マハーシャラ・アリ)と出会い、彼が唯一の心開ける存在になります。父親のいないシャロンにとってはまさに父親代わり、シャロンはずっと一人ぼっちの辛い現実を過ごしていましたが、ファンと出会い心の拠り所を得ます。
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そして学校でも幼馴染のケヴィンが唯一そういう存在として彼の側にいてくれるようになります。でもシャロンの生活は好転することはなく、思春期になっても「お前、オカマみたいだな」と罵られイジメは続き、生き辛い現実に変化はあまりありません。
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ある夜、シャロンはケヴィンと浜辺で一緒に過ごしたことでお互いの存在が特別なものになりますが、悲劇的な出来事が起きたことを機に、二人の関係性も人生も行き違いそれ以降、離ればなれに・・・。時は流れ大人になったシャロンはリトルと呼ばれていた面影がないくらいに屈強な成人へと変貌し、ファンと同じドラッグの売人という人生を歩んでいた、そんなある日、シャロンの元にかかってきたケヴィン(アンドレ・ホーランド)からの1本の電話がまた彼の人生を変えていきます。

 本作の登場人物はほぼ黒人、イジメ、貧困、LGBTといった様々なマイノリティの苦しみを描いているので確かに冒頭触れたようにある特定の人のそれを描いた特殊なものと思われるかもしれません。でもこの映画がフォーカスするのは共同体の中に属しているシャロンの疎外感です。誰かが誰かを差別すること、孤独を感じることはどんな境遇にあっても経験し得ることです。
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ファンはシャロンに「自分の人生は周りに決めさせるな」と教えますが、その人を何かの枠にはめたがるのは他人だし、他人は誰かをカテゴライズすることで差別をするから、自分で決めろと言ったのかもしれません。黒人であること、男性であること、そういったことで社会が個人に求めること、枠にはめたがることはとても多く、それは人種、性別が変わっても同じです。なので自分は一人であることを感じている(感じたことがある)人にとってはこの映画がとても私的な物語となっていくのです。
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(シャロンを大切に想う人は誰もが料理を彼に振る舞ったり、食べさせます。映画における料理シーンは登場人物たちの関係性や感情を物語る大切なファクターです)

 そして孤独を感じていても誰かたった一人でも心を解放出来る人、無条件に気持ちを渡せる人がいれば人は生きることが出来ます。それがシャロンにとってのファンでありケヴィンだったのです。ファンとケヴィンの不在によって心を閉ざして大人になったシャロンは憧れのファンのような生き方と風貌をなぞり周りを寄せ付けません。でも疎遠になっていたケヴィンからの1本の電話で、彼の中の何かがまた呼吸をし始めるのです。
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ダイナーのシェフになったケヴィンは「お前に似た人をこの店で見かけて思い出したんだ」と昔と変わらない距離でシャロンを迎えます。子供の頃と全く違う風貌になったシャロンですが、そのうつむき加減の眼差しは変わりません。言えなかった言葉はたくさんあっても二人が交わす目線のやり取りは会えなかった時間を埋め、雄弁に想いを語るのです。

そしてケヴィンはシャロンに食べさせようと料理を振る舞います。私は人生でこんなに官能的な料理を見たことがありませんでした。それが私のこの映画を観終わった時の感想「いや~ん、ロマンチックや~ん」に繋がっていくのです。大切な人へ料理を振る舞う行為がこれまで観たどんなラブシーンよりエロかった・・・。
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小さい頃から自分の殻に閉じこもって生きていた少年がたった一人の人と出会うことで自分が自分であることを許していく、これはまさに"愛"の物語なのです。

By.M
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