皆さんこんにちは。奇しくも今回ご紹介する映画に登場する画家グスタフ・クリムトの絵画がとっても大好きな女住人Mです。戦時中、芸術愛好家であったヒトラーはヨーロッパ中の美術品を略奪し、自身の美術館を設立しようとしていました。当時、ナチスが没収したことで未だ正当な持ち主の元に戻っていない美術品は10万点以上あると言われています。今回ご紹介するのはまさにその奪われた美術品をめぐる物語、11/27(金)公開の『黄金のアデーレ 名画の帰還』です。
主人公のマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)はナチス占領下のウィーンからアメリカに亡命した過去を持つ老女。ナチスに奪われた叔母・アデーレの肖像画の返却を求め、オーストリア政府相手に裁判を起こします。その絵画は"オーストリアのモナリザ"と称えられ、オーストリア国立美術館が所有していたグスタフ・クリムトの名画<黄金のアデーレ>(正式名称:アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ)。マリアは駆け出しの弁護士ランディ・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)に裁判の協力を依頼します。物語は<黄金のアデーレ>が辿った数奇な運命とナチスに人生を翻弄されたマリアの過去と現在を交錯させながら描かれていきます。
オーストリアを代表する画家クリムトの名画の1つ<黄金のアデーレ>。モデルとなったのはマリアの叔母。芸術家のパトロンもしていたぐらい裕福な暮らしをしていたもの若くして死去。その絵は生活を共にしていたマリアとその両親の住む家に飾られていました。が、ナチスがオーストリアを占領したことを機に生活は一変、絵画や美術品はすべて没収されてしまうのです。彼女たちはユダヤ一家だったから・・。
マリアは生きるために全てを捨てて、夫と共にアメリカへ亡命します。生まれ育った家を捨て、これまでの生活を捨て、両親すら捨てて・・・・。全てを捨てて命からがらアメリカへ渡った彼女は年月を経て、再びその想いとプライドと正義をかけて、叔母の肖像画<黄金のアデーレ>を取り戻すべく、絵画を所有するオーストリアを相手に裁判を起こすのです。それは本来ならマリアが相続すべきものでした。
この絵は世界で最も高額な絵画の1つと言われる名画で時価1億ドル以上とも言われていますがもちろん、その金銭的な価値のためでマリアは行動を起こしたのではありません。そこだけ切り取るとセンセーショナルな事件にみえますが、マリアにとってこの絵画がただの芸術品でなく、本当は何を意味していたのかは、この映画を観ると痛いほどに伝わってきます。
(マリアとランディを助けるジャーナリストを演じるのはダニエル・ブリュール。
彼の存在が描かれるところも胸打たれるポイントです。)
ユダヤ人だっただけで狂わされた人生、亡くした家族、友、捨てるしかなかった故郷。辛く悲しい思い出しかない故郷ウィーンに戻ることを頑なに拒否していたマリアが絵画を取り戻すためにランディと再びこの地を訪れるのですが、彼女は決してドイツ語を話そうとはしない。そんなところにも彼女が抱えていた喪失感がどれだけ大きいものか感じとれます。そして訴訟に関わる過程で彼女は否が応でも過去と対面しなければならないのです。その度に湧き上がってくる怒り、悲しみ、やるせなさ。戦後から随分時間が経った今も決してマリアの中では終わらない、忘れられない記憶があるのです。そんな想いを抱えながらも、時にシニカルな笑いやユーモアでもって、政府に立ち向かう女性マリアを演じたアカデミー賞女優ヘレン・ミレンの演技はさすがとしか言いようがありません。
(本作のプロモーションで来日したヘレン・ミレンさん。
共演したライアン・レイノルズについては「ハンサムなんだけど脱ぐともっと凄いのよ」と。お茶目なコメント。)
一方、駆け出しながら弁護を引き受けることになったランディ。最初は勝訴したら手に入るであろう莫大な報酬といった邪な思いで始めたマリアとの二人三脚だったのですがオーストリアのユダヤ人というルーツを持つ彼にとってもこの裁判を通し、自分が何者なのか、どうして自分が今ここにいられるのかを知るきっかけを得ることになります。直接は戦争を体験していなかったランディでさえも、祖先の無念の思いを経てここにいる。マリアの涙の記憶が描かれるだけでなく、ランディという若者が自身のアイデンティティーを知りそれにより成長していく物語も描かれるところが本作の魅力でもあります。
~人は同じことを繰り返す。だから忘れてはいけないことがある~
そんなことを改めて考えさせられながらも、信念と誇りをかけて戦ったマリアの姿にパワーが貰える1本です。
スクリーンで是非、ご堪能ください♪
By.M
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