『燃ゆる女の肖像』
今回は第27回カンヌ国際映画祭脚本賞&クイア・パルム賞のW受賞にして、世界の映画賞を席巻したフランス映画12/4(金)公開『燃ゆる女の肖像』をご紹介します。
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舞台は18世紀フランス、ブリュターニュの孤島。画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は伯爵夫人から娘エロイーズ(アデル・エネル)の肖像画を描いてほしいと依頼を受ける。それは今で言うお見合い写真のようなもの。エロイーズには内緒にしてほしいからと彼女には散歩相手と思わせて、マリアンヌにこっそり肖像画を完成させてほしい、と。
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しかし真相を知ったエロイーズは絵の出来栄えを否定し、自身がモデルになることを提案。それから二人は肖像画が完成する5日間を共に過ごすことに・・・望まぬ結婚を目前にしている貴族の娘と彼女の肖像画を描くこととなった女性画家の恋を描いていきます。
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とにかくため息が出るほどに美しい。音楽も限られた印象的なシーンでしか使われないので美しい絵画を鑑賞しているかのような感覚にすらなるこの映画。でもただ見た目が美しいだけの映画じゃない。正面から対峙する二人の恋があまりにも美しい。そして女性同士の恋愛を描く時、二人の情熱がほとばしる!といったビビットな恋愛というイメージが何となくあった私にこれまでになかった印象、そしてテーマを見せてくれたのが本作です。
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女性は結婚することが人生の全て。エロイーズの結婚相手も実は姉の相手だったけれど、嫁ぐことを悲嘆した姉は自ら死を選んでいます。結婚を拒むことも出来ず、しないという選択肢の先にあるものが死である、そんな時代に姉同様に結婚を望んでいないエロイーズ。一方、才能があっても女性を画家として認めるという発想すらなく、男性(例えば父親)の名前でしか作品を発表出来なかったマリアンヌ。そんな社会において二人の女性が互いを想うことになっても許される時代ではないことは明白です。
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でもことさらに“女性同士の秘められた恋”としては描かれることはなく抑圧の世界にいる二人が出会い、魂を響かせ、それでいて静かにでもずっと燃え続けるような感情と出会っていく様が内なる熱い温度でもって描かれていきます。
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自ら肖像画を描くようにと告げたエロイーズがただ見られていただけの存在から「私もあなたを観察しているから」とマリアンヌを見つめ返し、ただ受け身な存在を脱し、対等という関係性の元から恋に落ちていく様は恋の始まりを描く中においてとても現代的だな、とも思ったり。
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劇中に登場するギリシャ神話「オルフェウス」の引用にもシビレます。亡くなった妻の命を取り戻すため冥界に降りたオルフェウス。帰り道に決して後ろを歩く妻の姿を確認してはいけないと告げられたのに約束を破り振り返ってしまう。それは妻との永遠の別れを意味したにも関わらず・・・このモチーフを何度か登場させ、マリアンヌとエロイーズが最終的にこの恋とどう向き合ったのかを想像させるエンディングは何とも言えません・・・
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確かにあった記憶と感情を支えにそれと共に生きることを選ぶ者、終わらせはしないと振り返えることを拒む者。結ばれないという結果があったとしてもそれをただ儚い結末と片付けていいのか・・・。手に入らないからこそ永遠になる想いもあるし、手放したことで美しく輝きを増す想いもあるんじゃないか、と。
この映画はきっとあなたの記憶に残る1本になる!
By.M
(C) Lilies Films.