『CLOSE/クロース』
夏休みは大作映画の公開が続きますが、小規模ながらにとても力がある作品も公開中なのでそういった映画とも出会っていただければなぁ、と思います。今回ご紹介するのは第75回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作、7/14(金)公開『CLOSE/クロース』です。
13歳のレオ(エデン・ダンブリン)はレミ(グスタフ・ドゥ・ワエル)と大の仲良し。学校でもプライベートでもいつも一緒の二人はまるで兄弟のように過ごしていた。ある日、クラスメイトから「二人は恋人同士なの?」とからかわれたことでレオはレミとその日から距離を置いてしまう・・・
とにかく胸をしめつけられる映画です。レオとレミが一緒にいる光景は眩しすぎるほどにキラキラ輝いています。屈託のない笑顔でじゃれあって、二人が花畑を一気に駆けるその横移動を映し出す冒頭シーンは生命力に溢れ、たまらなく美しく、きっと映画を観終わって、多くの人がこの場面を反芻することでしょう。でもそんな完璧な光景の中にいた二人に思いもよらぬことが起きてしまうのです。それは互いが互いを思いやっていた関係性に他者からレッテルを貼られたことがきっかけでした。
他人の言うことなんて無視出来ればよかった・・・所詮、興味本位の言葉だもの。でも多感な年頃の子にとっては周りから自分がどう見られるかということが気になってしまうのは致し方ないこと。大人だって他者や社会からの目に囚われ自分が思っている真逆の行動をとったり、自分でも吃驚するぐらい冷たい行動に出てしまったりすることも往々にしてあることだから。境遇は違ったとしても誰しもが経験するであろう心の揺らぎを描いているからこそ、レオの戸惑いに胸が痛くなるんだと思います。
毎日待ち合わせて学校まで自転車を走らせていた二人なのにあの日から言葉はなく、ぎこちない。学校で別の友達の輪に加わったり、男性らしさを表すようなスポーツを急に始めてみたりとレオが抱える気まずさは不安定な眼差し、レミを意識的に遠ざけるちょっとした行動で描かれ、感情が言葉では発せられないから余計に心に刺さります。そんな行動を取られてしまう理由が理解出来ないレミが憤ってしまう姿も本当にやりきれません。
そして引き起ってしまう、取り返しのつかない出来事・・・・それもこれ見よがしに描かれることはなく、自分がとった行動によって悔やんでも悔やみきれない気持ちを抱えることになるレオの姿を丁寧に描いていきます。
と同時に家族ぐるみで仲が良かった二家族の両親、レオのお兄ちゃんの心の在り様も描かれ、それぞれの立場で理解出来るからますます胸が痛い・・・。それでも自分の中にある葛藤と孤独にきちんと向き合おうとするレオには再生というかすかな兆しが見られることにせめてもの救いを感じます。
なぜ人は誰かを何かの型にはめたがるのか。それに何の意味があるのか・・言葉にすればすぐに壊れてしまうような脆い感情の中に宿る温かさは誰にも奪う権利はないのだと、自戒を込めて思うのです。
レオとレミを演じた二人はこれが俳優デビュー作。こんなに繊細な表現が出来るまさにこの役を生きた二人の新しい才能に歓喜しつつ、長編映画2本目でここまでの映画を作ったルーカス・ドン監督の次のステップも楽しみでなりません。
By.M
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