『落下の解剖学』
今回紹介する作品、映画ファンの方はお待ちかねの1本ではないでしょうか?2023年カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝き、本年度アカデミー賞でも作品賞、監督賞を始め5部門ノミネートの2/23(金)公開『落下の解剖学』です。
人里離れた雪山の山荘で3階の窓から転落死したサミュエル(サミュエル・セイス)。第一発見者は視覚障害をもつ11歳の息子ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)だった。はじめは事故と思われたが捜査が進むにつれ妻のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)が夫殺害の容疑をかけられ法廷に立たされる。真相を追っていくうちに夫婦の秘密が浮かび上がっていくが・・・
予告編を見る限り、旦那さんの死の真相はいったい!?というところをフォーカスした映画に思えるんですが、いやはやなんともよく出来ている、それでいて俗っぽさもあると申しましょうか、ただのサスペンス映画、法廷劇ではなかった・・・・さすがパルムドール作品。
映画の前半は事件の様子が描かれます。現場検証、検視結果、その過程で旦那さんの死は事故とも他殺ともとれるけれど、その時、その場にいたのは息子と奥さんだけ・・・・最初は「事故だったのかしらね」と思っちゃうんです。奥さんは売れっ子作家、なんかおしゃれ生活に見えるし、息子とわんこと暮らす穏やかな日常に悲劇が起きたのね・・・と。
でもこの夫婦、同業の作家だったけれど妻は成功し、夫は結果が出せずにくすぶっていたこと、事件前日に派手に夫婦喧嘩をしていたことがわかったり、次第と「おやおや」となっていくんです。そして事故にしては不可解な点もあり、容疑が奥さんのサンドラに向かってから物語は一気に法廷劇へシフトします。
一見、仲睦まじい現代的な夫婦だったのに、検事が出してくる証拠はサンドラにとって不利なものばかり。またこの検事が絵に描いたようにイヤな感じでサンドラに容赦なく詰め寄ってくるんです。(まぁそれが仕事なんですが・・・)一方、彼女の弁護人は昔からの友人ヴァンサン(スワン・アルロー)。これがまた絵に描いたようなナイスガイ。優しく親身にサンドラをサポートする様にまたもや「おやおや」と思っちゃう。この映画のタイトルはなぜ夫が落下したかを裁判で解剖していく、というような意味合いで付けられてると思うんですが、夫婦関係が落下してく様も解剖されていくともとれて、深読みが止まらない・・・
でもそうこうしているうちに、この事件の真実はこちらが望む結果であろうがなかろうが、たった1つしかないのに、検事や弁護人が出す情報を前にサンドラがきっとこういう人なんじゃないか?とか旦那さんがきっとこうだったんじゃないか?という事を先入観でもって見ようとしている自分がいることに気付かされるのです。ひいては日頃そういう無意識のバイヤスで物事を判断しちゃってる?とハっとさせれて彼女の裁判を通して、こちらまで「試されてる!」、そんな気持ちにもなってきます。
この巧みな脚本はジュスティーヌ・トリエ監督と(シネマイクスピアリでも上映した『ONODA 一万夜を越えて』の監督で)彼女のパートナーでもあるアルチュール・アラリが共同で手がけました。同業の夫婦間に起きる、夫婦にしかわからない関係性が露呈していく様をえぐるように描くこの映画を似たような境遇の二人が作っているという、それはそれで震えます。(むちゃくちゃ信頼し合っているカップルだと思いますけど!)
いや~、夫婦関係って難しいですね!ご夫婦、カップルでご覧になる場合、信頼関係のある者同士、それを測りたい方と鑑賞されることをオススメします・笑
By.M